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2016年4月1日

インタビュー:「草木花 × カメラ」 植物写真に魅せられて60年〜アマチュア植物カメラマン 山田隆彦さん(後編)

今回は前編に続き、植物写真に魅せられて60年、図鑑の写真を専門とするカメラマンの山田隆彦さんに、カメラ初心者が植物をうまく撮るために必要なポイントを教えていただくことになりました。また、インタビューの最後に「初心者が撮影するときに気を付けるべき10のポイント」にまとめましたので、お見逃しなく。

 

場所は、東京・新宿御苑。今日の生徒は、一眼レフは持っているけれど、オートモードでしか写真を撮影したことのない編集部員たなか。実際に撮影しながら、植物をうまく撮るポイントをアドバイスしていただきます。

山田隆彦さん

山田隆彦さん

 

ちなみに、たなかのカメラは、「EOSKissX50」です。

公園で最初に出合ったのは、ロウバイ。そろそろ花も終わりに近づいていました。

 

山田:真ん中に色がない黄色一色ですから、素心蝋梅(ソシンロウバイ)ですね。中国から来た植物です。

たなか:ロウバイの写真を撮るときは、どんなことに気を付ければいいでしょうか。

山田:花の色が薄いので、背景が明るいと花の色が飛んで暗くなってしまいますから、木の陰や葉の緑をバックにして撮影するといいですよ。アップで撮るときのF値は「8」から「9」、背景をぼかしたいなら、「4」から「5.6」くらい」が基準です。そして何よりめしべの先にピントを合わせるのがポイントです。

山田さんとロウバイ

山田さんとロウバイ

 

たなか:植物の写真を撮るなら、やはり一眼レフがオススメなのでしょうか?

山田:もし、コンパクトカメラに物足りなさを感じるようなら、高価なものでなくてもよいので、一眼レフをお勧めします。解像度も高いし、絞りや焦点をマニュアルで操作できるので、撮りたいイメージに近づけることができますよ。

たなか:レンズも一緒に買ったほうがいいでしょうか?

山田:初心者向けのカメラなら、たいていはズームレンズがセットになっていますけれど、撮れた写真のシャープさがちょっと甘いと感じるようだったら、35、50ミリや90、100ミリの単焦点マクロレンズを追加するといいですね。

たなか:一眼レフを買いましたが、オートでしか撮影していません。

山田:作品としての写真を残したいときは、絞りを開く(絞り値=F値を小さくする)ことでバックをぼかし、花をフワッと浮き立たせるとキレイな写真が撮れますよ。F値は、「2.8」か「4」くらい。F値を小さくすることで、ピントの合う幅が狭くなり、バックをぼかすことができるんです。この時の注意点は、できる限りピントが合う範囲が広いポイントを探すことです。

私のように図鑑などの記録として撮影する場合は、植物全体が構図に入るように、対象の植物の一番手前にピントを合わせながら、絞り込んで、後ろの方までピントを合わせて撮るのがコツです。F値は、「8」か「9」、ときには「11」くらいにすることもあります。

写真は、最低2、3枚は撮っておくといいですね。1枚目の写真は、ピントが甘いことがありますからね。花の写真は、1にも2にもピントです。でも実際に、自分でピントが甘いなと思う写真が図鑑に使われることもあるので、何とも不思議です。

 

–赤白の梅の花もそろそろ終わりです。

たなか:コウバイとハクバイがキレイに咲いていますね。

山田:梅は、名札がないと種類を見分けるのは難しいんです。植物を撮影するときには、一緒に名札も撮っておくといいですよ。

 

–撮影時に気をつけること

たなか:今日のように青空を背景に写真を撮るときは、どんなことに気を付ければよいですか?

山田:青空で順光のときはそのまま撮影すればいいと思います。逆光の場合は、暗くなってしまいますから、絞りはそのままで、露出をプラスサイドに調整するようにしています。

 

–たくさん人が集まっていると思ったら、カワヅザクラが咲いています。

たなか:桜の花のどのあたりを狙って撮影するのがよいのでしょうか?

山田:レンズによっても違ってきますが、身体を使って、カメラを花に近づけたり遠ざけたりしてピントを合わせることも大切です。背景が明るいと暗い写真になってしまいますから、露出をプラスサイドに補正します。

試し撮りしながら園内を廻る

試し撮りしながら園内を廻る

 

たなか:まさに訪れようとしている桜の季節。私のような写真初心者でも桜の写真をキレイに撮るためのコツを教えてください。

山田:まず、ちょっとお話しすると、桜にはものすごい数の種類があります。例えば、ソメイヨシノは、オオシマザクラとエドヒガンとの間に生まれた雑種起源のサクラです。同じように掛け合わせたサクラは、よく似ているけど違う種類ができるんですね。サクラといえば頭に浮かぶソメイヨシノは、江戸時代に染井村(現在の豊島区駒込)の植木屋さんから「吉野桜」の名前で広まったといわれています。

さて、初心者が桜をキレイに撮るときには、まず、ファインダーを覗きながら、構図を決めます。そのなかでどこか1カ所、良さそうな花を一つ見つけて、そこにピントを合わせるんです。そのときも、めしべにピントを合わせることを忘れないでください。F値を「5.6」あたりにしておけば、バックがぼけた写真が撮れますよ。花の細部までキレイに撮りたいなら、F値は「8」か「9」くらいにします。慣れるまでは、花をクローズアップして撮るといいですね。遠くから撮ると、何となく物足りない写真になることがあるようです。

図鑑に残す写真を撮るときは、萼(がく)や萼筒(がくとう)、葉っぱの形や、葉の根元や葉柄にある蜜腺の場所、木肌などを撮影しておくと、桜の種類を調べる手がかりになります。

 

–というところで、たなかの撮った桜の写真を、山田さんがアドバイス。

山田:枝が目立ち過ぎています。花で枝が隠れるような角度で撮影しましょう。こっちはどこにピントが合っているかわからないでしょ。たくさんある花のなかのどの花を中心にするかを決めて、めしべにピントを合わせるんですよ。オートでだめなら、マニュアルにして、F値は「8」、露出は「1.0」か「0.7」にします。

枝が目立ってしまっている写真

枝が目立ってしまっている写真

どの花にピントが合っているかわからない写真

どの花にピントが合っているかわからない写真

これなら合格かも

これなら合格かも

 

たなか:マニュアル……。難しいです。

山田:自動だけで撮影しようと思うなら、光の方向を考えながら、自分が動いて撮影するしかありません。オートの場合、カメラによっては露出補正をした方がよく撮れるものもあります。花を撮るなら最初から露出補正をして「-0.3」あたり、少しアンダー目に設定しておくといいでしょう。そのうえで、撮りたい花をひとつ定めて、光の方向を考えながら、めしべにピントを合わせて撮影すればいいんです。

たなか:ストロボを使って撮影こともありますか?

山田:フラッシュを焚くと不自然な色になりがちなので、通常は午後2時くらいまでの自然光で撮影するといいでしょう。しかし、クローズアップで撮るときは、ある程度光を取り込む必要がありますから、フラッシュをたいて、F値を上げて、絞り込むようにします。そうすることで、花の奥のほうまでピントが合うようになります。

 

–柵の向こうに黄色い福寿草が咲いています。この福寿草、こんなにかわいい姿なのに、毒草なのだそうです。

福寿草

福寿草

 

山田:少し距離がありますから、今使っている50ミリのマクロレンズを100ミリに変えて撮影しましょうか。90〜100ミリのマクロレンズを使用すると、背景がぼけたクローズアップになります。しかし、全体を撮ろうとすると、かなりひかなければならないので、遠くの植物をクローズアップで撮影するときにしか使えないという不便はあります。

立ち入りが難しい場所にある高山植物を撮影するときには望遠レンズが必要になります。しかし、どうしてもピントが甘くなって、出来上がった写真が眠い感じになってしまうので、どんなに高いズームレンズより、単焦点レンズで撮影した方がいいかなと感じます。

たなか:最近は大きな望遠レンズで撮影している人をよく見かけます。

山田:望遠レンズは近くの植物は撮影できないはずですから、マクロレンズが付いているんでしょうね。でもカメラが重くて、手ブレすることがあるので、本当は三脚を付けて撮るのがいいですね。三脚を立てるのが大変なときは、どっしり構えて脇を締めて、揺れないようにして撮ることが大切です。最近は簡易型の軽い三脚も出ていますよ。

 

たなか:最後にエバーグリーン読者に一言、お願いします。

山田:写真はたくさん撮れば撮るほど、良い写真、悪い写真がわかるようになってきます。ですから、失敗を恐れずに、何はともあれ、たくさん撮影してください。そうすることでますます撮影が楽しくなっていきますよ。

 

山田さんが教えてくれた「初心者が撮影するときに気を付けるべき10のポイント」

  1. 植物写真の基本は絞り。絞りを開け(絞り値=F値を小さくする)ば、背景がぼけて花が浮き立った作品的な写真が撮れるし、絞れば花の細部までキレイな図鑑的な写真が撮れる。
  2. 単焦点レンズで撮影するとボケみが出て綺麗に撮れる。
  3. ピントが甘くなる可能性を考えて、同じものを最低2、3枚撮っておく
  4. 被写体よりバックの方が明るい時は、露出補正を+サイドに増やして暗くなるのを防ぐ。
  5. 良さそうな花を一輪探してそのめしべにピントを合わせる
  6. 薄い色の花を撮る時は、濃い色をバックにして撮影。
  7. 自然光での撮影は午後2時ごろまで
  8. 記録する場合は、花のアップや葉っぱの形、木肌など細部を撮影しておく。
  9. 遠距離撮影には90〜100ミリのマクロレンズで三脚を使用。背景がぼけたクローズアップが撮れる。
  10. 三脚がない場合は、どっしり構えて脇を締める

いかがでしたでしょうか?皆さんも10のポイントを実践して、綺麗な植物の写真をたくさん撮ってみてくださいね。

 


 

■山田隆彦さんプロフィール

山田 隆彦(やまだ・たかひこ) 1945年兵庫県生まれ。現在日本植物友の会副会長兼事務局長。日本全国のすみれを訪ね歩く。著書『江東区の野草 続 続々』(江東区)(共著)、『野の花山の花ウォッチング』(山と渓谷社)(共著)、『探険しよう ぼくたちのまちの多摩丘陵』(NPO法人 みどりのゆび)(共著)、『写真集日本のすみれ』(誠文堂新光社)の編集協力、『図説花と樹の大事典』(柏書房)の一部執筆、『スミレハンドブック』(文一総合出版)、『参歩の山野草図鑑』(新星出版社)、『万葉歌とめぐる野歩き植物ガイド』春・夏・秋冬編(共著)(太郎次郎社エディタス)、『花手帳2015』(共著)(山と渓谷社)、デジタル植物図鑑『にほんの植物』(共著)(amana)、(公社)日本植物友の会『植物の友』に「ビジネスマンの植物ノート」を連載、「草木左見右見」、『新ハイキング』に「ハイキング花ノート」を連載中。


山田さんとロウバイ